
高齢化に伴い通院者、入院者が増加してきていますが、この方々の中には旅行を楽しみたい方、昔の思い出の探る旅をされたい方が多きいらっしゃいます。しかし、一般的にはなかなか支援のサービスが見つからず諦めていらっしゃる方が多いのが現実です。これらを解決するために医師の坂野様がリタビーという会社を立ち上げ支援を強める活動を行っておられます。
OSKグローバルビジネスプロモーション(GBプロ)でお招きしお話を伺いました。
以下はその概要です。
同社のWEBです。→https://retaby.co.jp/
当日の動画です。→https://youtu.be/74n8WSwcnxw
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

講師:株式会社リタビー 代表取締役 / 医師·医学博士 坂野恵里氏
まず、私たちのこれまでの取り組みについてお話しします。私たちはこれまで、患者さんやご家族が旅行や外出に関してどのようなお困りごとを抱えているのかを知りたいと考えてきました。近畿大学に在籍していた頃、休暇を利用して、がん患者さんやパーキンソン病などの神経難病の方々から直接お話を伺い、旅行に対するニーズが本当にあるのかどうか、また医療従事者が旅行の相談を受けた際に困った経験がないかなどを知るため、学会での出展や市民公開講座などでアンケート調査を実施しました。そして、昨年5月に法人化し、旅行会社として現在に至ります。

私たちがこの事業を始めたきっかけ

なぜ私がこの事業を始めようと思ったのか。それは、医師として診療にあたる中で、外出や旅行を希望される患者さんやご家族が非常に多くいらっしゃることを実感したからです。「今なら気候がいいから行っておいで」「治療の休薬期間中だから今なら行けるよ」と伝えても、実際にはなかなか実行に移せない方が多くいらっしゃいます。そうした経験から、結局旅行や外出ができずに人生を終える方々を目の当たりにしてきました。
若い頃は「なぜ今がいい時なのに、行けないのだろう」と思っていましたが、6年前に私の母が脳出血で倒れ、現在外出には車椅子が必要な状態になりました。その母との旅行を計画した際に、現地での介護、タクシーや交通機関の手配、バリアフリー情報の収集など、想像以上に苦労しました。実際に訪れてみると、私たちが想定していたバリアフリー度と現地で認識されているバリアフリー度が異なることもあり、困難を感じました。この経験を通して、普段の旅行の手配でさえ大変なのに、持病がある場合はさらに旅行に行くことが難しいのだと初めて実感しました。
旅行が健康にもたらす効果

実は、旅行が健康にもたらす効果は、様々な研究で報告されています。健康な方であっても、旅行に行く頻度が高いほど認知症の予防効果があることが示されています。
VR(バーチャルリアリティ)旅行を体験した方では、視覚認知機能や首の可動域の改善が報告されています。
病気の方でも、旅行に行ったという良い経験が免疫系に良い影響を与えたり、乳がん患者さんの心の健康を改善するという報告もあります。これは、観光業と医療現場の連携によってQOL(生活の質)が向上できる可能性を示唆しています。
これらのことから、日本でも外出が難しい高齢者や闘病中の患者さんを対象とした外出や旅行は、健康に良い影響をもたらすことが期待できると考えています。
闘病中・介護中の旅行ニーズと課題

「闘病中や介護中だからこそ旅行に行きたい、連れて行きたい」という気持ちは、多くの方に共感いただけるのではないでしょうか。しかしその一方で、闘病中や介護中だからこそ生じる特有の不安や懸念もたくさんあります。移動や食事制限、お手洗いの心配はもちろん、当事者としては「家族の迷惑にならないか」、ご家族としては「途中で体調が悪くなったらどうしよう」といった様々な不安が挙げられます。
私たちが100名以上の方に行ったアンケート結果では、「どれくらいの頻度で旅行に行きたいか」という質問に対し、90%の方が「半年に1回、または1年に1回以上旅行に行きたい」と希望しています。コロナ禍前のデータですが、70代の方の年間宿泊旅行回数は平均1回です。このことから、病気や介護が必要であっても、健康な方と同じくらい旅行に行きたいというニーズがあることが分かりました。
ユニバーサルツーリズム市場の可能性

国内のユニバーサルツーリズム市場規模は非常に大きく、**延べ旅行者の20%、国内旅行消費の10%**を占めています。しかし、国土交通省が定義するユニバーサルツーリズムの対象は、旅行や外出に不自由がある高齢者と障害者です。ここに闘病中の方々が加われば、さらに市場規模が拡大することが期待されます。私たちは、健康上の問題を抱えた方を対象とした新しい旅行カテゴリーの確立を目指しています。

現状、患者さんやご家族が自分で旅行を計画しようとすると、付き添いサービスやバリアフリー対応の宿泊施設、介護タクシーなどをそれぞれ手配しなければなりません。お体の不調や不安があれば、この手間から旅行を諦めてしまいがちです。そこで私たちは、これらを一括で手配し、さらに医療従事者が関わることで、お出かけのハードルを下げることを目指しています。
具体的には、通常の交通や宿泊の手配に加え、旅行中に必要な看護師や介護士(トラベルヘルパーなどの資格を持つ者も含む)の付き添い、道中の介護タクシーの手配などを一括で行う「ワンストップサービス」を提供しています。
既存サービスとの違い
既存の市場には、医師が必ず付き添う「トラベルドクター」のようなサービスや、介護会社が運営する「介護付き旅行」などがあります。しかし、トラベルドクターのサービスは主に重症の末期がん患者さんなど、最後の旅行となる方を対象としていることが多いです。また、介護付き旅行では看護師と介護士の両方を手配できるところは少なく、有料老人ホームなどの施設向け団体旅行では、施設入居者向けのレクリエーションであり、ご家族が一緒に参加できないといった問題もあります。
私たちは、これらの既存サービスではカバーしきれていない領域に焦点を当てています。具体的には、病気を抱えているものの急変のリスクが少ない通院患者さん(糖尿病や心不全などの慢性疾患、パーキンソン病などの神経疾患、リウマチなどの膠原病で足が不自由な方、酸素が必要な方など)や、自力で遠出が難しい高齢者の方々(デイサービスに行く必要はないものの、ご自身だけでの遠出が難しい高齢の独居ご夫婦など)も対象としています。
私たちの旅行プランと費用

私たちの場合、1泊2日の旅行代金は1人あたり10万円から20万円程度、日帰りであれば3万円程度です。これは、日本人全体の宿泊旅行の平均値(6万3000円)や日帰り旅行の平均値(1万9000円)と比較すると、1.3倍から1.5倍程度となります。
私たちが提供する旅行プランには、一般的なオーダーメイド旅行に加え、1泊2日のモデルコースプランと集合型日帰りプランという特徴があります。オーダーメイドでは下見から旅行に至るまでに時間がかかるため、モデルコースを設定することで、宿泊先や観光地、食事などに選択肢を持たせつつ、下見にかかる時間とコストを削減しています。
また、集合型日帰り旅行プランは、例えばクリニックや鍼灸院に送迎が来て、ゆったりとしたスケジュールで日帰り旅行を楽しみ、また元の場所に戻るというイメージです。これにより、クリニックが地域のコミュニティの場となり、定期的な外出習慣を作ることで、フレイルや認知症予防、筋力低下予防にも繋がると期待できます。
モニタープランの事例
先日実施したモニタープランをいくつかご紹介します。



堺市から奈良県明日香村への日帰り旅行: 70代から80代の仲良し4人組で、かかりつけのクリニックから介護タクシーで出発しました。明日香村では公認ガイドの案内で観光を楽しみ、クリニックへ戻るプランです。参加された方からは「かかりつけまで行けば、奈良まで行けるなんて」と大変好評でした。



デイサービス利用者向けのお出かけ: デイサービスの利用者5名が介護タクシーで、堺市内のバリアフリーレストランでランチを楽しみました。車椅子利用者や杖を使う方など様々でしたが、皆さん和気あいあいと過ごされていました。また、車椅子のままお茶の体験ができる場所で、抹茶と堺の生菓子を味わうなど、思い出に残る体験を提供できました。
これらの取り組みは、利用者様にとっての安心・安全な旅行、健康寿命の延伸に繋がるだけでなく、地域全体にも良い影響をもたらします。地域の訪問看護ステーションにとっては保険外サービスの収入源に、介護タクシーにとっては稼働率の向上に繋がります。また、自治体にとっては、2025年問題(団塊の世代が後期高齢者になる)を控え、地域で高齢者や障害者が最後までいきいきと過ごせるよう支援する取り組みの一環となります。さらに医療機関にとっても、患者さんの治療だけでなく、QOL向上をサポートできるというメリットがあります。
チーム体制と今後の展開
当社の代表は医師である私ですが、その他に、20年以上の国内・海外添乗員経験と旅行業取扱管理者の資格を持つ者、介護福祉士の資格を持ち、自身もがんサバイバーである者など、各分野の専門家が熱い思いを持ってこの事業に取り組んでいます。現在は旅行件数が少ないため、訪問看護ステーションや介護タクシー会社に登録いただく形で連携していますが、今後はさらに体制を強化していく予定です。
今後はまず、関西圏で運用モデルを確立し、将来的にはこのプランニングを全国で展開していきたいと考えています。また、「トラベルケア」という民間資格を確立し、旅行の付き添いに関する看護や介護の専門性を高めていければと思っています。
大阪・関西万博への参画と今後の展望
現在、私たちは大阪・関西万博の共創プログラム「レッツ・エキスポ」にも参加しています。これは、万博会場内でのサポート、バーチャル体験、オンライン配信などを行う事業です。特に万博会場内でのサポートでは、1970年の大阪万博に行かれた患者さんのインタビュー動画を制作しました。
(動画再生)https://drive.google.com/file/d/15cUaXtWGa-svKJIb1h46kYB6Wx85NweK/view?usp=sharing
この動画に登場する方々は、糖尿病や前立腺がんなど様々な疾患を抱えていますが、皆さん笑顔で生き生きとお話しされています。現在、「リ・エキスポ」では週に1回、西ゲートと東ゲートにステーションを設け、有資格者とボランティアの2名体制で車椅子を押すサポートなどを行っています。高齢のご夫婦で一日中車椅子を押すのは大変ですし、お手洗いなどの介助も必要になるため、こうしたサポートが重要になります。
私たちが目指す社会と課題
私たち「リタビー」が目指すのは、誰もが気兼ねなくお出かけを楽しめる社会です。そのために、旅に連れていく側だけでなく、旅先や観光地が受け入れやすい環境作りも必要だと考えています。今後は、応急処置セミナーや車椅子操作指導、コンサルティングなども行っていきたいです。
また、どうしてもリアルな旅行が難しいケース(緩和ケア病棟に入院されている方や移植患者さんなど)も一定数存在します。そういった方々には、VR旅行やオンラインツアーなども提供していきたいと考えています。
病気があっても、障害があっても、生きがいを持って病気と付き合うという価値観は、今後ますます重要になっていくでしょう。欧米ではすでにその価値観が定着しています。私たちは、旅行が健康にもたらす効果についてのエビデンスを示しながら、この価値観の普及にも貢献していきたいと考えています。
現在の私たちの対象は、がん患者さんや高齢者、通院中や在宅療養中の方々ですが、今後は様々な医療機関と協力し、臨床研究や学会発表などを通して、事業の幅を広げていきたいと考えています。
最後に

私たちは、旅のトータルサポートを目指しています。昨年8月に営業を開始し、10月から本格的なプロモーションを始め、11月からはモニタープランや旅行案件も増えてきました。しかし、医療機関やクリニック、地域の訪問看護ステーションには多くのパンフレットを置かせていただいているものの、本当に必要としている方に直接情報を届けるBtoCの広報がまだ弱いと感じています。
また、医療従事者が始めた会社ということもあり、旅館やホテル、バス会社など、観光業との繋がりがまだ薄いため、もしご紹介いただける方がいらっしゃいましたら大変ありがたいです。
今後もこのようなセミナーや学会発表などを通して、私たちの取り組みをご紹介し、皆様にサポートしていただけるよう努めてまいります。
誰もが気兼ねなくお出かけを楽しめる社会の実現に向けて、私たちはこれからも進んでまいります。本日はありがとうございました。